「建築」が与えてくれる幸せがある

  1. Interior


今夜は十六夜(いざよい)だ。


昨日のスーパーバックムーン(バックは牡鹿のこと。牡鹿の角が生え変わる時期ということからだそう)もきれいだったけれど、今夜の月は、それにもまして美しい。


私はゴロゴロソファに横になって、ガラス越しに月を眺めている。グレン・グールドの弾くピアノソナタ「月光」を聞きながら。薄くかかっていた雲も晴れ、今は煌々と月が輝いている。
こんなふうに月を眺めたことがあっただろうか。


この家に住むようになって、多くの発見があった。L字形の2面が大開口のこの家は、自然が部屋の中に流れ込んでくる。


満開の夜桜も、デイジーが一面に咲いた庭も、すぐ近くにきたウサギも、部屋の中にいて味わうことができる。それは、建築が与えてくれたギフトだ。


ここにいると、至誠の魂をすぐそばに感じる。一度も住むことはなかったのに。
至誠も自然とともにあるのだと思う。だから、ここにいると寂しくない。


庭があり、田んぼがあり、山があり、木がある。空があり、雲が流れ、夕陽が見える。それらがすべて、家と繋がっている。


住宅という建築に、モダンリビングを通して20年関わってきた。実際に見た建築だけでなく、撮影に関わった住宅は数百件に及ぶ。
それでも、この家のような自然との一体感は、感じたことがなかった。それは、ここに住んでいるからわかることなのだろう。
時間の変化、季節の変化、ささやかな変化を知るには、「住む」という継続した時間の流れが必要だ。


設計してくれたバケラッタの森山善之さんと、担当者の杉本麻耶さんには、本当に深く深く感謝している。この家の設計をお願いした時、「事務所全員で応援するよ」と森山さんが言ってくれた。


この家がなければ、至誠が逝った後の、あの最初の冬を耐えられなかっただろうと思う。
あの冬、雪は私に優しかった。この家の中に入り込み、私を包んだ。


建築は、人生を入れる器だ。


森山さんは、どこまで見えていたのだろう。そのことを改めて聞いてみたことはないけれど、きっとすべてが見えていたのだろう。


ゲストルームの窓から旭岳が切り取れることも、月がこれほど美しく窓にかかることも。その時、泣きたくなるくらい、心が震えることも。


今、本当の意味で「建築」が与えてくれる幸せを知った。


ありがとう、東川2M house。ありがとう、森山善之さんとバケラッタの皆さん。


十六夜の夜に。

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