ウェグナーの「ラストダイニングチェア」PP58ーーPPモブラー社長の講演から

  1. Interior

東川に住んでいて、素晴らしいと思うことはたくさんありますが、その1つが東川デザインスクールです。

東川デザインスクールでは、「丁寧に暮らすこと」「丁寧に生きること」をメインテーマに様々な角度からデザインやものづくり、暮らしについての講演やワークショップを、年に数回、開催しています。
織田憲嗣さんが東川のデザインアドバイザーとなられて、2016年に始まりました。

2023年5月22日に開催された東川デザインスクールは84回目。この日は200名が集まりました。道内、道外からの参加者も多く、私の友人も名古屋から来ていました。

「自然との共存」
PPモブラー社のものづくり、人づくり

と題して、PPモブラー社の代表取締役社長、キャスパー・ペデルセン氏が講演。
1953年に創業したPPモブラーは、巨匠ハンス・J・ウェグナーとの協業を通じて多くの名作家具を生み出し、そして今も作り続けています。

どうやって、あの美しい家具が生まれてくるのか、デザインと木と職人とのコラボレーションはどう行われているのか、私自身、とても興味がありました。
そして、キャスパーさんのお話は、その期待を裏切らないどころか、おそらく生涯忘れられない講演の1つとなりました。

キャスパー・ペダルセンさん。(右)
通訳はスカンジナビアン・リビングの羽柴さん。


お話は、アイナー(創業者の祖父)、ソーレン(父)、キャスパー(本人)の3世代が一緒の写真から始まりました。
小さな工房からスタートしたPOモブラーは、現在65名のスタッフがいるそうです。でも、これ以上にはならないだろうときっぱり。この規模なら、全員の顔がわかるからと。

講演の中で印象に残ったキャスパーの言葉を紹介します。

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アイナー(祖父)は言った。「材料と従業員を大事にすると、美しいものができる」

ウェグナーは言った。「木は世界に共通する材料だ」「椅子は人間にいちばん近いモノだ」

PPフォレストという12ヘクタールの森を作っている。森を守ることが大切。

私たちの家具は、次の木が成長するまで長持ちする必要がある。だから100年以上、使えるものにしたい。

仕上げはソープかオイル。ウレタン塗装は使わない。ナチュラルフィニッシュはしっかりと歳をとっていく。

モノは使えば使えほど、良くなる。

木は美しく、温かい。人間と離れられないもの。
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私も東川2M houseで、PPモブラーで作られた椅子を使っています。
それがウェグナーのPP58です。

キャスパーさんは、このPP58についても詳しくお話ししてくださいました。

1987年にデザインされたPP58(革張り)&59(ペーパーコード張り)は、生涯に500種類以上の椅子をデザインしたウェグナー晩年の「ラストダイニングチェア」である、と。

ウェグナーが長年追及してきた背もたれとアームのデザイン、ラウンドバックアームチェアと呼ばれるシリーズの最後の椅子です。
チャイニーズチェアから始まり、Yチェアへ。そして、座り心地を求めてそのYの字の部分をなくすことからたどり着いたラウンドバックアームという形。
カウホーンチェアなど、多くのバリエーションが生まれましたが、その最後に、行き着いたのがPP58&59だったのだそうです。

ウェグナーはチャイニーズチェアのバックの
パーツをなくすことを
試行錯誤した。

その椅子を、私もゲストも日々、東川2M houseで使っています。その日常を振り返り、デンマークのデザイン史の流れを、この椅子で体感している思いでした。

東川2M houseのPP58。
(撮影/下村康典)

一見、とてもシンプルで、素朴といった印象さえある椅子です。
ザ・チェアのような高貴な雰囲気も、サークルチェアのようなアーティスティックなデザイン性もありません。
しかし、ここにPPモブラーの優れた技術や、時間をかけた木の扱いなどが集約させていることも、キャスパーの話から知りました。

東川2M houseのウェグナーデザインのPP58。
この椅子も、デンマークの
PPモブラーの工場からやってきた。
この自宅の椅子は、シートハイ42センチ。
この低さが疲れない理由の一つ。


家具に使う木は丸太で買い、数ヶ月寝かせてから、ざっくりと部材ごとに木取りをし、2年乾燥させる。大きな部材を長く置いておくには場所も必要で、その分コストもかかります。デンマークでも、この方法をとっているブランドはないそうです。旭川家具の方たちも、このプロセスに驚いていらっしゃいました。


そして、丸いアームと脚部をつなげる    という技術も大変難しいとのこと。以前はすべて手作業でしたが、現在はCOCという機械を取り入れることで、より精密な加工が可能に。しかし、最後の仕上げは職人が手触りを確認しながら手掛けているそうです。


詳しく知るにつけ、自宅のPP58に対してますます愛着をもつようにになりました。これから先の私の人生に、共に寄り添ってくれる椅子です。大切に使い続けようと思います。


東川に住んでいると、自然は近いだけでなく、自然からたくさん恩恵を受けていると感じます。
木も土も、ただそこにあるだけでなく、それぞれの役割を担い、大きなサイクルの中で生まれ、育ち、使われていく。
人間も、椅子もその一端にあるにすぎません。

キャスパーの講演の中で、いちばん残ったひと言です。

「サスティナブルとは、長く作り続けること。長く使い続けること」

友人の病を知り、日々命のことを考え続ける中で、私の人生に残る言葉になりました。

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