ラグジュアリーの本質とは?ーーエルメスの「星」の夜

  1. Family


午前中、ICUのナースステーションに電話をして、至誠の様子を聞くのが日課になりました。


少し熱が出たけれど、37度台前半に下がったこと。変わらず落ち着いた状態で、痛み止めのためにウトウトしていること。呼びかければ意識があること。1時間に一度は、痰の吸引をしていること。


どんな小さなことも、私には大切な情報です。変わらないですよ、という言葉だけでもありがたいのですが。


先日、ブログで星について書いたからか、ふとエルメスの「星」の夜を思い出しました。http://yuka-shimoda.jp/family/1793/


エルメスでは毎年、年間テーマを定めています。調べてみると、


「星」Dans Les etoiles


は1999年のイヤーテーマでした。その頃、私は「ヴァンテーヌ」という女性誌にいました。


エルメスはテーマに合わせてイベントを開催しており、メディアの関係者や著名人が招待されました。当時は、iPhoneもない頃でしたが、今で言うところのインフルエンサーでしょうか。その年のイベントも趣向を凝らしたものでした。


まだ開発途中だったエリアの新しい施設の一角に黒幕が貼りめぐらされ、中に入ると暗く、足元がやっと見えるくらい。10人ほど座れる丸いテーブルは、ガラスの天板の下に小さな照明がたくさん仕込まれていました。

その豆球は、その日、1999年4月5日の夜空を表していたのです。なぜ日付まで覚えているかというと、その日は私の誕生日でした。ディナーの間に、テーブルの星の星座を探すクイズもあり、勝ったチームにはエルメスの小物がプレゼントされました。


その日の招待客は、他のブランドでも顔を合わせることが多く、そうしたイベントやパーティに慣れた人たちばかり。正直、その夜の趣向も、多くの方は最初のうち、少し引いて冷静に見ていた感じでしたが、次第にその星の世界観に引き込まれていきました。


パーティの最後に登場したのは、空中バレエでした。頭上の夜空を飛び回るダンサーたち。ダンサーたちが星を撒き始めました。大小のキラキラ光る星の断片が床を埋め尽くすほど降ってきました。その頃にはみんな歓声をあげていました。


余韻を引きずりつつ、出口に向かうと、そこで大きなエルメスのオレンジ色の、ずっしりとした紙袋を渡されました。


これに横になって、夜空を眺めてくださいーーエルメスのハンモックでした。


徹底した世界観の完結。

14年間「ヴァンテーヌ」にいる間に、多くのイベントを経験しましたが、星の夜は深く私の中に残っています。


今にして思うと、その夜、私はラグジュアリーの本質に触れたのだと思います。他のイベントと何が違ったのかと言えば、emotionalだったということでした。
「心震える」という言葉がぴったりの、、、。


物は媒介でしかありません。本当に贅沢なのは、経験であり、感動なのだと思います。


今、家族の命と向き合う日々の中で、美しいジュエリーを手にしても、豪華な空間に身においても、私の心は震えません。


けれど、今日のようなどこまでも透き通った青い空や、健気に咲いたミニバラを目にすると、心に静かなさざなみが広がっていきます。


80年代から90年代のバブルも経験した世代です。その頃、ラグジュアリーとはvisible(見えるもの)でした。けれど、あのエルメスの星の夜は違いました。
そして今。2020年代、ラグジュアリーはinvisible(見えないもの)になったと感じます。


「心震える瞬間」をどれだけ持つことができるか。


それは、「いま、ここ」という瞬間を流してしまわずに、自分の手の中にいかにとどめることができるか、ということにかかっていると思います。


今日はもう少ししたら、病院に出かけます。
FaceTimeで10分間、至誠と会うために。

青空を雲を眺めるだけで、
なぜ心が震えるのだろう。

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