「ささやかなこと」の重さ

  1. Lifestyle

今朝、いつものように朝食を用意して、8時にFaceTimeをつなぐと、家人はまだベッドに横になっていました。点滴が逆流して、点検してもらったとのこと。しばらく様子を見ると。

30分ほどして、家人も普段通り、朝食を取ることができましたが、私は果物だけ。

とりあえず、元に戻り、ほっとしました。

家人が受けているのは、ビーインサイトという抗体療法で、28日間、点滴が続きます。とても少ない量なので、時として逆流が起こってしまうのだそう。今までにも、短い時間あったそうです。

当たり前に、ご飯を食べ、当たり前に話をする。

当然のように、ずっとそれが続くような気がしているけれど、ほんの少しのことで崩れてしまう日常なのだと、改めて思いました。

一緒にご飯を食べる。一緒に笑う。過去の記憶を語り合う。何気ない会話の中にある、愛しい時間。

たくさんの方からのご好意もそのひとつです。

家人への便りに使ってと、送ってくださった地元の美術館のポストカード。

学生時代の友人は、珍しいデザインの62円の切手シートを手紙に入れて。

ちょっとお茶をしてください、と届けてくださったスイーツ。

梨と一緒に、どう?と聞いてくれるご近所さん。

父の命日に合わせて送ってくれたマスカットの房。

オーガニック野菜をお裾分け、と届けてくれた方も。

家人のポシェットの色に合わせて選んでくれた、ネイビーのバスタオル。

汗をかくからパジャマがたくさんいると聞いて、手渡してくれた元気の出る真っ赤なパジャマ。

こんなにも、たくさんの方に心にかけて頂いている。そのたびに、温かい思いと感謝の気持ちでいっぱいになります。

そして、日々の暮らしの中にある小さな喜び。

久しぶりに買った白いバラの花の佇まい。

バカラのグラスで飲む、朝一杯の水。

柔らかな羊のモリーに座る午後の読書。

すっきりと片付いた空間の心地よさ。

パリッと乾いたリネンのテーブルクロスの手触り。

ベランダのミントを詰む、爽やかな香り。

心震える音楽に出会う。

丁寧に、今この時を大切に、という気持ちは以前からあったけれど、家人の再入院以降、よりその想いが強くなりました。

流れていく時間は誰も止めることはできません。できるのは、その一瞬の密度を高めることだけ。

大事に至らずに済んだという安堵と共に、「ささやかなこと」の重さに今更ながら、気づく朝でした。

父の命日に合わせて届けてくれたマスカット。
覚えていてくれた、このことがありがたくて。




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コメント

  • コメント (2)

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    • Carine
    • 2020年 9月 09日

    二十歳になる少し前、Vingtaineという素敵な雑誌に出会いました。
    ある号で、あなたに必要な100のこと、みたいな特集に心ひかれたことがありました。
    正確な記載とは違いますが、

    ・丁寧にアイロンがかけられた白いハンカチ
    ・朝、起きてからお気に入りのグラスで飲む水
    ・「すみません」の代わりに「ごめんなさい」「恐れ入ります」と言う言葉
    ・自分を表してくれるようなシグネチャーとなる香水
    ・凛とした背筋・・・

    などなど、当時の読者年齢に合わせた、自分が清らかにシャキッといられるために
    エネルギーをくれるようなアイテムがつづられていたことを記憶しています。
    全ての人にそれぞれ自分が自分でいられるために大切なものがあって
    毎日の生活に小さな喜びをくれるものだったんだな、と今思います。

    そして、あれから20年以上(笑)の時間が過ぎて、スピリットは同じまま、
    有形無形にかかわらず、より深みのあるアイテムに変わっていることを思います。

    >そして、日々の暮らしの中にある小さな喜び。
    >久しぶりに買った白いバラの花の佇まい。
    >バカラのグラスで飲む、朝一杯の水。
    >柔らかな羊のモリーに座る午後の読書。
    >すっきりと片付いた空間の心地よさ。
    >パリッと乾いたリネンのテーブルクロスの手触り。
    >ベランダのミントを詰む、爽やかな香り。
    >心震える音楽に出会う。

    日々の生活の中で、誰のせいでもないのに、
    不安や心配事、そして時に、崩れ落ちそうになる出来事が誰にでも、起きていく。

    だからこそ、私も結花さんのように、自分が今日も穏やかに清らかに立っていられるように、
    小さな喜びをくれるものを大切にしていこう、って思うことが出来ました。

    日々の小さなことは、決して当たり前ではないこと。
    そして、日々の小さなことを大切にしている人たちが、自分以外の誰かに対して
    「今日もあなたを思っているよ」というその気持ち。
    それがあるだけで、少しまた強くなれるように思います。

    人を思い、人に思われ、ささやかだけど大切なこと、がたくさんある毎日を、
    私も大切にしていきます。

      • yuka-shimoda
      • 2020年 9月 09日

      Calineさん

      いつも温かいコメントありがとうございます。
      小さな喜びをくれるものたちーーなんて優しい言葉でしょう。

      私も日々、それを大切にしていきたいと思います。

      今、思うと、ヴァンテーヌの頃は、まだ実感としてなかったこともたくさんありました。
      でもその分、ピュアだったかもしれません。

      今は、ただただ切実に感じます。

      結花

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