毎朝、入院中の家人とFaceTimeで朝食を共にしています。
変わり映えのしない病院食に向き合う家人は、それでも胡椒をかけて少しでも美味しくと工夫しています。そんな家人の目を楽しませたくて、私も毎日、違った器で自分の朝食を整えています。
今朝の朝食の器は、いつもの北欧の器ではなく、少しエレガントに。アスティエの白い器、北海道の木工作家・内田悠さんの銀色の木のプレート、バカラのグラスの組み合わせ。
ステンレスのいつものカトラリーを出そうとして、そうだ! あのアンティークにしようと思い立ちました。
25年くらい前、ヴァンテーヌという女性誌の取材で、毎年、訪れていたイギリスで、アンティークの小さなシルバーの小物を見つけては買っていました。
この3点セットのカトラリーも、その頃、購入したもの。ほとんど無傷で箱に入っていて、使われた形跡もあまりないのは、子供の誕生や何かの記念日のお祝いとして作られたものだから、とお店の人に聞きました。
とても愛らしく美しいので、ずっと大切にしまってあったのです。
普段から、バカラのグラスもシルバーのカトラリーも、当たり前に使っていたつもりでしたが、まだ使っていない美しいものがあったということに、自分でも少しびっくりしました。
昔、手にした「ロスチャイルド家の上流マナーブック」という本に、こんな一節があったことを思い出します。
「いちばん良いものを自分のために使いなさい」
大切なお客様にあなたは欠けたティーカップを出しますか? お客様以上に大切なのは、あなた自身なのです、と。
3点セットのシルバーのカトラリーは、とても繊細で軽く、口当たりも優しい。朝食がいつにも増して、特別なものになりました。
「人は、周囲にあるもので作られる」
以前、インタビューしたオランダのデザイナー、マルセル・ワンダーズが言っていた言葉です。
どんなものを身の回りに置くか、どんなものを使うかは、その人を変えてしまうほど力がある。だからこそ、使うものを吟味しなくては・・・。
自分を大切にするということは、そういうことなのだと思います。
どこの家にも、忘れてしまっている美しいものはあるのではないでしょうか? 壊すのが怖いから、なにかの時にとしまい込んでいるものが。でも、今、それを使わなくていつ、使うのでしょう。
美しければ美しいほど、高価でああれば高価なほど、数多く使い、自分の暮らしを彩るものにしてみては?
私も今まで以上に、日々の暮らしの中で「いちばん美しいものを自分のために」使い、この一瞬を大切にしようと思います。