「ゆるやかな家族」

  1. Family

入院すると、本人は途端に社会と遮断されます。どんなに親しい関係でも、病院で真っ先に聞かれるのは「ご家族の方ですか?」という言葉。

本人がFaceTimeやSNSができる状態ならば、社会的な関係は継続できますが、至誠のように自分でできないと、家族以外はその様子さえわからなくなります。まして、今はコロナで面会禁止。会うことは家族でも叶いません。


人はそれまでの人生の中で、たくさんの人と繋がっています。至誠と私は仕事のフィールドは別々でも、一緒に行動する時間が多かったので、共通の友人も多い方だと思います。それでも、家族が知らない、本人と直接繋がった親しい関係はあるものです。


私がこうしてブログで至誠のことを発信するのは、私と直接は繋がっていない、けれど至誠の人生の中で大切だった方達に、今の至誠のことを伝えたいという思いがあるからです。


至誠は、糸井重里さんの「ほぼ日」で15年以上、毎週エッセイを書き続けてきました。私も編集者として、書くことを生業としてきました。


私が今の至誠の立場だったら、私の親しい人たちに、私のことを知らせてほしいと思うでしょう。至誠のことを発信するのは、今、私がすべきことの一つだと思っています。


至誠が救急車で運ばれ、肺炎で入院してから今日で1ヶ月。あの日のことは、何ヶ月も前のことのように思えます。刻々と、これほどの緊張感の中で過ごしてきたことはありませんでした。


毎日、電話かあるいは病院で直接、担当医のK先生からお話を伺っています。昨日のお話では、肺の影は少しずつ薄くなってきている。肺に溜まった二酸化炭素も少しずつ排出しつつある。だが、人工呼吸器の酸素の数値はまだ55%と濃い状態を維持する必要があり、38℃台の発熱になることもある。むくみも強くなってきているので保水剤と利尿剤を併用していく。抗生剤とステロイドが効くのを待ちましよう、とのことでした。


私は夕方になると気持ちが落ち込むのは以前からでしたが、それが夜にも、そして朝にも。朝は現実が蘇ってくるのがたまらないのです。


そんな中、たくさんの友人知人が私たちを支えてくれています。


「今日の小石さんはどう?」と問いかけてくれる方。私の好きな花で心を慰めてくれた友人夫妻。先生の話をひとりで聞くのは辛いから、と病院に付き添ってくれる人。遠く離れていてもメッセンジャーで励ましてくれる大学時代の友人ふたり。ちゃんと食べてくださいね、と美味しいものを送ってくださる方たち。気持ちがほぐれれば、と色鉛筆と塗り絵を選んでくれた後輩。少しでも楽になるように、と響く言葉の詰まった本をくださった方。さりげなく夜のお茶に誘ってくれるご近所さん。東川から届く、大雪山の初冠雪の写真。東川2M houseのブドウを収穫して送ってくれた友人、、、、、、。

今年2度目の東川から届いたブドウ。
ますます甘くなっていた。


本当にこんなにもたくさんの人に囲まれ、支えられていると改めて気づく毎日。日々、感謝の思いでいっぱいです。


先日、病院に行ったあとで友人たちが食事に誘ってくれました。至誠が家にいる時は、コロナだけでなく感染症に極端に神経質になっていましたから、半年以上、人との外食はしていませんでした。


麻布十番の小さなイタリアン。お客は私たち4人だけでした。一皿一皿、丁寧に作られた、家では絶対に食べられないプロの料理。そして誰かと食卓を囲むという行為。さりげない会話や笑い。それらがすべて特別でした。


ずっと忘れていた、、、いいえ、どこかにしまっておいた、温かく和やかなこの感覚。


ただただ、ありがたく、優しい夜でした。

東川に引かれて通った理由の一つは、
一棟貸しのヴィラ、ニセウコロコロがあったから。
オーナーの正垣さんご夫妻の
「おかえりなさい」の声が今も聞こえる。


ふと「ゆるやかな家族」という言葉が浮かびました。
血縁だけではなく、さまざまな形で出会い、触れ合った人たちと、支え合って生きるーーそれは「ゆるやかな家族」と呼んでいいのではないか、と。


私たちだけではない、誰もがもっているはずの「ゆるやかな家族」。その存在は、自分から求めた時に初めて見えてくることなのかもしれません。
自分を開き、助けを求めた時、その存在に気づくのかもしれません。


私も進まなければ。今日を大切に生きなくては。
「ゆるやかな家族」に支えられて。

去年の今頃。
白血病が再発し、移植のための入院をする直前の至誠。

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