この2日間

  1. Family

10月4日(月)、至誠はICUから一般病棟に移りました。ICUに入って3週間。気管切開を経て、容体の急変の可能性は少なくなった、という判断での移動ですが、人工呼吸器もそのままで、肺炎が重篤な状態であることは変わりありません。


K先生のお話では、小さな肺炎が繰り返し起こっているとのこと。レントゲン写真も白い影が薄くなったり、濃くなったりしています。


医療は常にそうなのですが、この先、起こる最悪の可能性も患者の家族に伝える義務があります。この時も、細菌性の肺炎ならばステロイドで治療できるが、移植患者にある免疫性の肺炎になると、救命の手立てがない、、、という話を聞きました。


まだそうと診断されたわけではない、と分かっていても心は辛く、泣きながら帰宅しました。


とても1人ではいられなくて、弟を呼びました。何かしていないと辛すぎ、弟に手伝ってもらいながら、小石の部屋を片付け、掃除しました。キッチンの保存食も片っ端から捨てました。溜まっていた書類も、弟が分類してくれ、不要なものは処分しました。


そうしていると少し、気持ちが落ち着いてきました。
弟が帰った後、私のメッセージを見た友人が2人来てくれました。忙しい中、時間を割いて。


気がつくと、昼ごはんも食べていなかった、、、。


友人たちはウーバーイーツを手配し、一緒に食卓を囲んでくれました。仕事の話やインテリアの話、共通の友人のこと、、、。病院や病気ではなく、社会につながる話をたくさんたくさんしてくれ、深夜までいてくれました。


友人たちが帰った後、私は話し疲れて眠りました。


翌日はインテリアショップの取材をし、夕方、病院に行きました。FaceTimeができれば、と思ったのです。ここ数日、FaceTimeしても至誠は眠っていて意思の疎通ができませんでした。気管切開で声は出なくても、目を開けてこちらを見てくれれば、と。


病棟に行くと、「今、処置中です。終わったら先生からお話があります」と説明するための部屋に通されました。不安のまま、待つこと1時間半。K先生がいらして、絵を描きながら説明してくださいました。


管の交換の際、喉に血の塊が出来たこと。それが右肺に入り込んだこと。柔らかくするために生理食塩水を40ml入れ、吸い出したこと。今は酸素も98%と落ち着いていること。


先生の話の間、私は右手の薬指のシルバーの指輪を強く握りしめていました。この指輪は、ご近所散歩の途中で見つけた小さなジュエリーショップで、至誠が自分のために買ったものです。昨日、棚の上にあるのを見て、私の左の薬指にはめてみたら、サイズがぴったりでした。ずいぶん昔になくしてしまった私の結婚指輪の代わりに、ずっとしていることにしました。


薬指のシルバーを右手で強く握っていると、その硬い質感に支えられるような気がしました。


先生の話の後、例外的なことなのですが、ほんの少し、至誠と会うことができました。入院してICUに映った9月11日以来の対面。防護服やマスクをつけ、病室に入りました。至誠は苦しそうな様子はなく、すやすや寝ていました。きっと聞こえていると思い、何度も繰り返し話しかけました。

「至誠は私の幸せ」ーー家に帰ってきて。

家にいた時より、顔は血色が良いくらいでしたが、至誠のすっと美しかった両手はグローブのようにむくんでいました。その手を手袋ごしにそっとにぎると、暖かい体温が伝わってきます。


あなたの手のぬくみ。命ということ。


谷川俊太郎の「生きる」を今日も暗誦してあげました。


「この手では、カードマジックはできないね、、、」と呟きなから、何度も何度も至誠の手を撫でました。


昨日も今日も、とても爽やかで美しい朝です。いつもならベランダで朝食をとるところですが、目が覚めて現実を思い出すと家にいるのが辛く、外に出ました。


2日続けて、カタネカフェに来て、朝食をとりました。人がいる気配、朝の音、パンの焼ける匂い。カフェの人との何気ない会話。それにとても救われる気がしました。


至誠は一生懸命、生きている。


私も淡々と誠実に今日を生きなくてはーー信じて、ただ信じて。

カタネカフェで。
摘みたてのレモンバーベナのハーブティー。
至誠のシルバーのリングは
私の薬指に。
ちょんまげにしたい、と髪を伸ばしていた頃の至誠。
2018年、冬。

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