7days book cover challenge 【6】「名作椅子大全」

  1. Lifestyle

<6>   「名作椅子大全」(織田憲嗣)ーー「自分のスペース」

NYのアーティスト、Mariko Dozonoさんから7days book cover challenge のバトンを受け取った。この企画では、本の内容や批評を語らない、というのが約束。でも、選ぶにあたってはいろいろなことを考えたし、それはとりもなおさず、今の自分とこのコロナの状況を考えることにもなった。だから、7days book cover challenge で選んだ本について、ここで語ってみたいと思う。

7冊を選ぶにあたっては、まずテーマを考えた。本は私の生活の一部で、お風呂に入る時、ベッドのそば、リビングの一角に本がないということはない。8年前に自宅をリノベーションするときに、思い出のものや衣類、長年とっておいたものは思い切って処分したが、本だけはすべて残し、収納できることを優先したほどだ。だから、本の数はかなりある。その中から選ぶにはテーマが必要だと思ったのだ。

今回、テーマとして設定したのは「今、大切にしたいこと」。この特別な状況にあって、誰もがそのことを考えたのではないだろうか。かつて必要だと思っていたものは、外出しない日々の中では不要となり、その一方で、見落としていたものの価値に気づく。

本のタイトルの後に、この本から得られる「大切にしたいこと」を書いた。

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<6>   「名作椅子大全」(織田憲嗣)ーー「自分のスペース」

普段、ゆっくり読めない本を読むのは、時間にゆとりがあるときの贅沢な過ごし方だと思う。私も久しぶりにこの本を手にしている。実は、まったく同じものが2冊、本棚に並んでいる。1冊は付箋だらけ。名作椅子のセミナーをすることになったとき、付箋を付けながらしっかり読んだ。それまでは拾い読みだったが、最初から読むと、椅子の歴史、それぞれのデザインの進化、デザイナーの本質がとてもよくわかった。これは手元に大切におくべき本だと思い、普段使う用(付箋付き)とは別に、保存用として新たに1冊求めたのだ。


売れる本と残すべき本は違うことが多い。私は編集者として、雑誌だけでなく単行本も手がけてきたので、本を出版することのハードルの高さはよく分かる。本の意義は、「後世に伝えること」にあるが、それで採算の取れる本を作ることは大抵の場合、とても難しい。


だから、この本を出版してくださったことに、心から敬意を表する。


この本は雑誌「室内」での14年間の連載をまとめたもの。毎月の連載執筆に、著者の織田憲嗣さんは毎回3週間を費やしたと言う。なぜなら、文章だけでなく、ここに掲載されているイラスト全てを描いていたからだ。


織田さんは東海大学旭川校の教授を長く務められたが、元々は広告の世界で活躍されたプロのイラストレーターである。若き日に椅子の魅力に目覚め、私財をつぎこんで椅子の収集と研究をライフワークとしてこられた。その収集品は「織田コレクション」として、日本よりむしろ世界で有名である。織田コレクションの概要は、1350脚以上の椅子、テーブル70点、キャビネット50点、陶器3,500点、ガラス器1,000点、各種資料20,000点など。


「モダンリビング」で織田さんの連載が始まったのは、私が2003年に編集長になるずっと以前のこと。テーマを変えつつ連載は20年以上続いている。「モダンリビング」に関わることになって初めて北海道の織田邸に伺い、以来17年、お目にかかるたびに多くの学びの時間を頂いた。


初めて伺ったとき、織田さんが話してくだったのは「天才フィン・ユールと秀才ウェグナー」についてだった。そして「フィン・ユールとポール・ケアホルムの家具の、”危うさ”に惹かれるんです」とも。


コロナによるSTAY HOMEは、すでに2カ月に入った。これから先、いつまで続くのかは誰にもわからない。私たちは新しい暮らし方、生き方に、いやがおうでも向き合わなくてはならない。


こんなに長く家にいるのだったら、ゆっくり本を読める椅子を買っておけばよかった・・・・そう言っている友人がいた。座り試しにショールームに行くことができないのは残念だけれど、この本でじっくりと椅子の背景を知り、選んでみるという方法もある。


椅子はただの道具ではなく、「自分のスペース」をつくってくれるものなのだから。