旅に出ることにした。
歳を重ねるほど、新しいことに踏み出すのは勇気がいる。
免許を取って6年目。
東川に来て、毎日運転するようになって3年以上経つが、まだ高速道路を走ったことがない。
自動車教習の最後に高速にのった時「小石さんビビリすぎ」と先生に言われたのを思い出す。
私は怖くて80キロ出せなかったのだ。
つい2日ほど前、かねてから行きたいと思っていたところに行こうと思いたった。
しかし、そこに行くには高速道路を使わなければならない。
東川よりずっと北の名寄より、もっと北にある美深町というところ。
青い星通信社という名の3室だけの宿がある。深夜、そこを予約した。
今日、3月12日は至誠と私の42回目の結婚記念日だ。
この日、何か特別なことをしたかった。だから決めたのだ。
至誠と一緒に旅に出よう、と。
美深町は村上春樹の小説「羊を巡る冒険」の舞台になったと言われているところ。
「羊を巡る冒険」ならぬ「結花の大冒険」!
高速に乗ったことがないから、ETCカードを使ったこともない。
ETCカードを初めてカードリーダーに差し込んだ。
料金所では受け取り票が出てこないので、わざわざ係の人を呼び出して聞いた。😅
北へ向かう平日の高速道路は、前後にほとんど車がいいない状態だったけれど、走っている間中、手に汗をかいていた。
あろうことか、途中で高速道路が途切れ、予期せず、下の道へ。
これは出口を間違ったか、と焦ったが、実は高速がつながっていなかった。
そのせいか、後半の名寄ー美深は、無料通行だった。
紛らわしいでしょ!
ものすごく早く家を出たので、(高速がダメなら下の道を行こうと思って)、チェックインの2時間以上前に美深町に着いてしまった。
カフェで時間を潰そうと思ったが、数少ないカフェは水曜日でお休みだった。
仕方がないので、美深温泉に行って昼間から温泉に入り、それでもまだ時間があったので、車の中でオンラインミーティングをした。
そしてとうとう到着。
青い星通信社。

昭和30年代に建てられたと推定される石煉瓦の建物。当初は警察官の官舎だったそう。
草に埋もれ廃屋だった2つの建物をリノベーションして、宿に生まれ変わったのは2019年のこと。
南棟には客室が3つ。北棟は食事にも使われる書斎になっており、充実したライブラリーがある。表しになった石煉瓦がきれいだ。

着いてから夕食までの時間をライブラリーで過ごした。私が持っている本が10冊ほどあり、全く違うジャンルの本もたくさんある。
思うままに、抜き出し、眺め、ソファに座って読む。
1時間に1本あるかないかの電車が窓の外を走っていく。1両だけの、電車が。

部屋は小さく簡素で、完璧にリノベーションされている。今はもう、豪華な設備など望まないし、気持ちにも合わない。至誠と過ごすには、これ以上ないほどぴったりの空間だ。
窓が切り取る白い景色。ここにはまだ春は来ていない。
ネット環境は問題ないので、完全にデジタルデトックスとはいかないけれど、それでも日常から離れることには意味がある。
至誠と私の42回目の結婚記念日。
私は至誠に聞いてみる。「どう?ここ?」
ニヤッと笑って至誠が答える。「いいね。すごくいい。」
この小さな旅を私は一生忘れないだろう。