編集者として37年、数え切れないほど多くの写真に接してきました。
料理、器、着物、ファッション、ウエディング、人物、建築、インテリア、食、美容まで。
その中でいつも問い続けてきたこと。
それは、「良い写真とはなんだろう」ということでした。
言葉は自分の手の中で生まれますが、写真は多くの条件や偶然、フォトグラファーという人の手を介して生まれます。
編集者の立場から見ると、思うようにならない部分があるからこそ、予想外の結果もありますし、それがプラスにもマイナスにもなる。
Bunkamuraザ・ミュージアムに「永遠のソール・ライター」展を見に行きました。1月に続いて2度目です。https://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/20_saulleiter_encore/
(〜9/27まで。渋谷の文化村にて開催中)
家人の再入院から少し経ち、アートに触れたいと無性に思ったのです。ひとりでアートに向き合う時間は、時代や空間を超えたとてもピュアな精神的世界だと思います。
1950年代からスタジオを閉める1981年まで、ハーパースバザーなどで活躍したソール・ライター。引退後、忘れ去られた存在でしたが、2006年、ドイツのシュタイデル社から出版された「Early Color」によって「再発見」され、その後、2013年に89歳で亡くなるまで、世界各国で展覧会が開かれた「ニューヨークが生んだ伝説の写真家」です。
2017年に、やはりBunkamura で開催された展覧会が、私のソール・ライターとの出会いでした。
絵画的写真。あるいは映画の最初の1シーンのような、、、。カメラという絵筆を自由に使い、描かれた写真。
2017年の時はモノクロの作品が多かったのですが、今回はカラー作品も多く展示されています。また、コンタクトシート(べた焼き)が展示されていること、壁にスライドで写真を投影させたコーナーがあるのも今回の特徴です。
編集者の目で見ると、コンタクトシートはとても興味深いものです。何枚もの少しずつ違うアングル、切り取り方の中で、どの写真を選ぶか。私もずっとそれを仕事としてし続けてきました。
ソール・ライターの写真を一言で言えば、「見せすぎないことの美しさ」。
見る人に、余地を与える構図と切り取り、ピントなのです。だから、そこに無限のイメージを見ることができる。
会場では、彼の言葉が何箇所か壁に描かれています。それもまた、とても印象深かったので、いくつか挙げてみますね。
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私たちは色彩の世界で生きている。私たちは色彩に囲まれているのだ。
神秘的なことは、馴染み深い場所で起こる。なにも、世界の裏側まで行く必要はないのだ。
彼女が揺り椅子に座って音楽を聴いているのを眺めるのが好きだった。
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こうした言葉の一つ一つが、写真と共に響いてくるのですが、最も深く刺さったのは、帰宅して開いた本「永遠のソール・ライター」の中の一行でした。
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私は単純なものの美を信じている。最もつまらないと思われているものに、興味深いものが潜んでいると信じているのだ。
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彼は自分の住んでいるニューヨークの、ごく近所だけで撮影していたといいます。当たり前にあるもの、見えるものの中に無限の景色を見ていたのです。
ソール・ライターの視点は、今の時代だからこそ必要なのかもしれません。自分の身近なところに青い鳥を探せ、と。
それは、自分の暮らしの中に美を見出すことであり、喜びを感じること。
アートはいつもとても大切なことを伝えてくれる存在です。人はパンのみにて生きるにあらず。
一枚一枚の写真と向き合った時間。
私はとても心穏やかでした。