東川プロジェクト【1】人に出会い、土地に出会う。
北海道の東川町に、本気で住みたいと思い始めたのは、2年くらい前のこと。
織田コレクションの取材や旭川デザインウィークのツアーで、何度も東川に訪れるうちに、自然の美しさと穏やかさ、何より精神の安らぎを感じることに強く惹かれるようになりました。
休暇のたびに四季を通じて通ううちに、家人もすっかり気に入って、2人で二拠点生活を具体的に考え始めました。
以前にもこのブログの「もうひとつの家を持つという決断」に詳しく書きましたが、旭川空港まで車で10分という地の利と、移住者が多く開かれた町であることもポイントでした。
昨年、東川町に土地を取得。
基本設計もほぼ終え、2020年4月には着工。
年内には竣工の予定です。
リノベーションは三度経験していますが、家を建てるのは私たちにとって初めてのこと。
当然ですが、家づくりには多くの人の手が必要です。
不動産屋さん、設計事務所、工務店の方々、設備関係、部材関係、家具屋さん、、、。
そして、私自身、多くの方に関わってもらいたいと思っています。
そんなこともあって、この家づくり、いつしか「東川プロジェクト」という呼び名がつきました。
「東川プロジェクト」、まずは土地探しのことから書いていきたいと思います。
2018年の夏くらいから土地探しを始めました。
東京での暮らしとの二拠点なので、自然の景観に恵まれた離農した農家宅地が理想でしたが、町役場に聞いても、対象は少なく難しいと言われました。
旭川の隣町、東川町は冬はマイナス20度くらいになり、また雪も多いエリアです。
冬の暮らしを考えると、町からあまり遠くないこと、除雪のことも考慮する必要がありました。
町役場から東川出身の不動産屋さん、Yさんを教えてもらいました。
Yさんに土地探しをお願いして数ヶ月。
2019年6月に、Yさんからこれからマーケットに出す土地があるけれど見に来ますか?という連絡がありました。
土地の場所を聞くと、東川に行くたびに泊まっていた一棟貸しの宿、villaニセウコロコロの近くでした。
ですからすぐにイメージできました。
翌週、旭川駅に車で迎えにきてくれたYさんは、不動産屋さんらしくない、とても気さくな方でした。
早速、土地を見に行き、即決。
350坪で750万円でした。
近年、北海道の中でも人気が高く、移住者の多い東川町ですが、それでも旭川市の住宅地の半額です。
東京に暮らしていると、土地の価格が尋常ではありません。
事実、今、住んでいる渋谷区の土地は、坪250万が相場です。
土地の価格は家づくりの予算だけでなく、暮らし方や人生設計にも大きく影響する問題です。
そのことを身をもって感じました。
その土地は、東川のメインストリートである道道に接し、忠別川の土手に向かって田んぼが広がり、敷地は緩やかに傾斜しています。
東には大雪山旭岳、南には遠く十勝連峰。
350坪の土地には古い家屋と納屋があり、ほとんどは畑でした。
地主のKさんのご両親が住んでいらした家と畑で、Kさんは自宅のある旭川から週に何度か通い、その年も畑を作っていました。
高齢になって畑も大変になってきたから手放すことにした、とのこと。
ただ、今年はもう作付けしてしまったので、10月まで畑を使わせてほしい、というのが条件でした。
私たちは喜んで、と7月に土地を譲って頂きました。
正式に契約する前日の7月8日、土地を見に行くとKさんは元気に畑で働いていらっしゃいました。
庭のサクランボの実がたわわに実っていて、好きに穫って食べていいよ、と言ってくれました。
木から直接もいで食べるサクランボの美味しいことといったら!
庭に木が多いことも、この土地を即決した理由の一つでした。
山桜、オンコ、銀杏の木のほか、果樹もたくさん!
サクランボ、ナシ、ブルーベリー、グーズベリー、そして葡萄棚も。
それは神様からのギフトだ、と私は思いました。
畑には雑草の影さえなく、きれいに手入れされており、土はフカフカで、慈しまれた土地であることが伝わってきました。
Kさんの旭川のご自宅にも、契約を含めて何度か伺い、家を建てた後も、畑のことや果樹のことなど教えてくださいね、とお話していました。
良いご縁が出来たことを、とても有り難いと思いました。
8月の末に東川に行くと、畑は驚くほど育っていました。
豆の木は背丈よりも高く、トマトも鈴なりです。
ナシやブドウもまだ青々としていますが、たっぷりとなっていました。
自然の恵みの豊かさは圧倒的でした。
家づくりのための景観条例などを聞くために役場に寄りました。
その時、役場の方からKさんが急死したことをお聞きしたのです。
元気に畑にいらした姿が浮かび、涙が溢れました。
10月、旭川のKさん宅にお参りに伺いました。
偶然ですが、その日はKさんの四十九日でした。
土地は出会いと言いますが、それは人との出会いがあって生まれるものだと思います。
この土地をKさんに「託された」という思いがします。
私達に畑を生かすことができるかどうかはわからないけれど、この土地を生かすことはできる。
そうしなくてはと強く思うのです。
この家は私たち家族だけの家ではなく、広い意味で「みんなの家」であってほしいと願っています。
そのための家づくりとプランについて、次回は書いていきたいと思います。