「東川の家を撮らせてもらえませんか?」
映像作家の青木聖也さんから話があったのは、昨年、一緒にMLスタイリングの動画を撮ったときのことでした。クライアントワークではなく、自分の作品として撮りたい、と青木さんは言ってくれました。
そして2月に、青木さんは東川にやってきました。
この家に一歩入り、ガラス開口からの景色を見たとき、青木さんは涙していました。「すみません、あまりに美しくて」
なんて純粋で誠実な人なんだろうと思いました。
この人が撮る映像ならば、私も心を開くことができるーー。
撮影は2月と3月のそれぞれ数日間、行いました。雪が美しい時に、霧氷が見られる時に、と。
出来上がる映像は想像できませんでしたけれど、私はそのまま青木さんに委ねていました。
インタビュー映像を撮る時、途中までは普通に話していたのですが、最後になって、やはり至誠のことを話さなければこの家の本当のことは語れないと思いました。
私にとって感情を抑えて話すのはとても難しいことでした。至誠が逝って2年半。今でも思い出すたびに涙が溢れてくるというのに。
けれど、、、至誠の思いは伝えなければ。この家は建築であるだけではなく、至誠の思いが形になったものなのだから。
前もって考えて話したわけではありません。ただ言葉が口から流れ出ていました。
出来上がった映像を見た時、これでよかったんだと心から思いました。この家のことを語る時、いつかは至誠のことを語らなければと、心のどこかで思っていたのです。でもそれはとても難しかった。
今まで雑誌の取材も受けましたが、そこまで掘り下げることは、相手にも私にもできませんでした。2年半という時間が経ったから、やっとできたことだったのかもしれません。
映像の中の東川は泣きたくなるほど美しく、それが何より私を慰めてくれました。
私は初めてのあの冬を思いました。心が凍りつき、何も感じなかった冬。泣くことさえできなかったあの時間を。
人は誰でも、いつか愛する人を失う瞬間を迎えます。それは理解はできても、受け入れがたい苦痛です。自分の時になって、初めて知る苦しさ、辛さ、悲しみ。そしてそこから誰も逃れることはできない。
この映像は広く多くの方に見て頂きたいと、英語バージョンで配信することにしました。これから、春、夏、秋と一年をかけて撮っていく予定です。
この家を設計してくれたバケラッタの森山善之さんと杉本麻耶さんに、心から深く深く感謝しています。
この家が私を支えてくれました。
私がそうであったように、この美しい東川の自然が、この家の有り様が、誰かの心を慰めてくれるのであれば、、、そう願ってやみません。