2003年にモダンリビングの編集長になって、撮影に立ち会うことになった時、初めてポール・ケアホルムというデザイナーのことを知った。
スタッフが撮影のために借りてくるたくさんの家具や小物の中で、ひときわ印象的だったケアホルムの椅子。
PK25のストリングスの美しい影を、今でも忘れることができない。
20年という時が経ち、ご縁があって東川町に家を建てることになったとき、「どんな家がいいの?」と建築家の森山義之さんに聞かれ、浮かんだのが2008年に取材に行ったケアホルム邸だった。
瀬戸内海のような静かな海に面した平屋で、とてものびやかで気持ちがよく、いつまでも記憶に残っていた。
東川の土地は海ではなく、田んぼに面していても共通するものがあった。
森山さんはデンマークに見に行こうとしてくれたけれどコロナで叶わず、ケアホルム邸を本で研究し、設計的に翻訳してくれた。だからこの家は、ケアホルム邸がイメージソースになっている。
そんな家だから、ケアホルムの家具を置きたいと思っていた。だが、その研ぎ澄まされたデザインはこの家には強すぎて、似合わない気もした。
ただひとつ、これならば、と思ったのがPK33、小さなスツールだ。
ポール・ケアホルムは、自分がデザインした家具に、自分の名前の頭文字であるPK○○とつけたが、それには厳格なルールがあった。
チェアは20番台、ソファは30番台、テーブルは50番台というように。そのルールに当てはまらない唯一の家具がこのスツールだ。
本来、30番台はソファのはずだが、3本脚の愛らしいデザインに、ケアホルムは敢えてPK-33という名前をつけたという。
春には花、秋には紅葉、冬には鳥たちの餌場にもなる、窓辺の桜の木。
この木を眺めるために、PK33を置こう。
上にのせるクッションをどの革にするかで、3ヶ月くらい迷い、友人たちのアドバイスもあってヌメ革を選んだ。
シミがついたり、汚れたりしても、それを時間の経過として育てていこう、と。
PK33がデザインされたのは1959年。私が生まれた年だ。
そして、今年は株式会社2M houseを起業した年。
アニバーサリーチェアとして、買うことにした。
オーダーから5ヶ月。クリスマス頃かな、という予想だったが、思っていたより早く、10月5日、PK33が東川にやってきた。
桜の木のそばの窓辺に置くと、以前からそこにあったかのように、しっくりと佇んだ。
1日に一度は、PK33に座る。
低くて安定感があり、不思議なほど座りやすい。視線が低くなるから、景色が少し違って見える。
今年の冬は、ココで鳥たちを眺めるのが楽しみになるだろう。