当たり前なことがすべて「特別なこと」ーー東川の夏休み

  1. Lifestyle

社会人になって初めて、7月末からお盆の入りまで、16日間の夏休みをとりました。

2020年、オリンピックの東京を脱出しようと、昨年末から東川町の定住希望者用の家を予約していました。仕事があれば、途中で戻ってきて、また行けば良いと思っていたのですが、コロナでリモートワークが基本になり、期せずして、2週間の滞在が可能になりました。

東川では、何度かオンラインで会議をしたり、ワークショップをしたり、トークイベントをしたり、と「ワーケーション」の日も。

実際にワーカーションを体験してみて思ったのは、気持ちの切り替えが少し重荷だということ。1時間でもオンライン会議が入っていると、それに合わせて1日のスケジュールを組み立てる必要があり、家族にも合わせて貰わなければなりません。

2週間という時間があってのことでしたので、それほど予定は詰めていませんでしたが、1週間くらいだと、結構ストレスかもしれませんね。

東川では、車で1時間くらいの、アルテピアッツァ美唄と、その近くの三笠市の内田悠さんの工房を訪ねた以外は遠出もせず、出来るだけ東川の中で過ごしました。

旭川空港まで8キロ、車で10分という土地。どこに行くにも車以外、ほとんど選択肢はありません。でも、田んぼの中を走っているだけで気持ちよく、日々違った光と雲と緑に、飽きることはありませんでした。

東川は人口8000人あまりの町ですが、心地よいカフェや食事どころがいくつもあり、私たちは毎日、日替わりでそうしたお店に行き、ゆっくりとランチをしたり、お茶を飲んだり。

宿泊先は自炊ができる普通の家でしたので、日常の買い物をし、ご飯を作り、本を読んで過ごしました。

朝は散歩に行き、広大な貯水池である遊水公園や、周辺の農道、住宅地を歩きました。一つ一つの建物は、すぐそばに見えても真っ直ぐな道のずっとずっと先にあることも。都会とは、まったく距離感が違います。

退屈なのでは?と思うかもしれませんが、少しも退屈ではありませんでした。

家人の9ヶ月の入院の後では、当たり前のことがすべて「特別なこと」に思えました。

ご飯を食べること。買い物に行くこと。散歩をすること。お茶を飲むこと。ただ車を走らせること。話をすること。

そして、私たちは、毎日、東川プロジェクトの進行具合を見に行きました。宿泊施設から車で5分。メインの通りに面した敷地ですから、日に何度もそばを通ることもありました。

ちょうど私たちが東川に行って1週間ほどして着工し、いよいよ家づくりが本格的にスタートしました。

何もなかった地面がパワーシャベルで掘られ、配筋がされ、コンクリートが流し込まれ、、、。その現在進行形をそばで見ることができたのは、とても心躍ることでした。

工事が終わった夕方、翌日の朝食のために敷地のブルーベリーを摘みに行くこともありました。

かつて農家宅地だった敷地には、農家さんが植えた果樹がいく種類もあり、初夏から秋にかけて次々と実ります。

6月のイチゴ。7月のサクランボ。8月のブルーベリー。9月のブドウ。10月のナシ。

それ以外も、大葉、シソ、グーズベリー、銀杏、ミョウガ、アスパラ、栗、、、など。

昨年まで丹精された畑だった土地は、今年は腰まで伸びた草に覆われた野原となっていますが、その中に季節、季節の花が咲いていました。

バラ、紫陽花、ユリ、オリエンタルポピー、菊、スミレ、ナデシコ、マーガレット、スイセン、、、。

どれだけの命がここで育まれていることでしょう。

ここで暮らすということは、この豊かな花や果樹と共に時間を重ねるということ。

これから先、何度その実りや花を待てることができるかはわかりませんが、1年1年、ああ、今年出会えてよかった、とその邂逅を喜びたい、と思うのです。

東川の夏休みはあっという間に過ぎてしまいました。

でも、私たちはその一瞬一瞬と向き合い、味わい、感謝して過ごしました。

人は自然の中にあって、その一部に過ぎないのだと、教えてくれた東川の夏。

2015年に母の病気が分かってから、この5年間は重い時間が続きました。どうやってそれを乗り越えたのだろう、と振り返ると、目の前の「今」だけに向き合い、過ごしたように思います。

先を考えるから不安になる。

過去を思うから、憂いが生まれる。

今だけを見て、今を大切に生きること。これからも変わらない、私の人生の向き合い方です。

織田先生ご夫妻と、敷地のブルーベリーを収穫。

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