羊のモリー

  1. Interior


家人と2人でインテリアショップをブラブラしていたら、羊の毛で包まれた椅子があった。何気に座った家人は「何? これ? 超気持ちいい! 買う!」と言う。
「買うの⁉︎  値段、見た?」と私。
住宅誌の編集を17年もしていると、たいていの名作家具は予想がつく。ヴィトラのオーガニックチェアか。それにしては高い。しかし家人は頓着せず、初志貫徹。
ショップスタッフが「イームズとサーリネンによる1940年デザインの80周年記念モデルで、世界で250脚限定のシープスキン仕様、シリアルナンバー入りです」と説明してくれる。何も知らずに、買う!と言った家人、意外と目利きかも?
「楽しみだなあ。そうだ!名前は羊のモリーにしよう」と家人。つい数日前に見た、羊の生態を取り上げたイギリスBBCのドキュメンタリー番組のタイトルが「羊のモリー」だった。
かくして羊のモリーが家にやってきた。だが、買った本人は昨年10月から長期入院中。モリーに出会ったときは一時退院中だったのだ。
というわけで、現在モリーはもっぱら私専用。東の窓際に置いているので、朝は陽が当たって、モリーに座るとポカポカと暖かい。いやー、ほんと、羊の毛って気持ち良い。椅子の裏側まで総着ぐるみ状態なので、なでさすり、抱きしめたくなる。モリーに座っての朝食は至福の時間だ。
新型コロナウィルスの影響で社会は停滞。仕事の予定も組めず、イベントやセミナーも延期か中止で、私ももっぱらテレワーク。その分、家にいる時間が長いので、あちらこちら場所を変えては仕事をし、本を読み、音楽を聴く。時には、小さなベランダの椅子とテーブルが仕事場になる。
そして仕事の合間にはモリーに座ってお茶をする。これまた至福のティータイム。
外出自粛やテレワークで家に目が向く人が増えたのでは、と淡い期待を抱く。良い椅子やソファは幸せな瞬間を作り出す。今こそインテリアに目を向けるとき!と叫びたい。
私たちは今年、東川町の田んぼに囲まれた場所に家を建てる予定だ。順調に進めば、年内には東川と東京の二拠点生活がスタートする。
そうなれば羊のモリーもお引っ越し。その頃には、家人も退院していることだろう。家人にとって東川での暮らしは、良い療養にもなると思う。
北海道、雪景色、羊のモリー、はあまりにもハマりすぎな気もするが、家人の衝動買いが美しく完結するのも、そう遠いことではなさそうだ。

下田結花(モダンリビング・パブリッシャー)

☆この原稿は、旭川家具協同組合のメールマガジンのために書き下ろしたものです。ご了承を頂き、転載します。

ヴィトラのオーガニックチェア。
シープスキン仕様は世界で250脚限定。


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