今朝、目が覚めたら、木の枝にうっすら雪が積もっていました。久しぶりに降った雪は、再び、世界を真っ白に変えていました。
これが今年、最後の雪景色なるかもしれません。
あれほど、毎日、当たり前のようにあった雪景色も、いつまでも同じでないのです。
あの日、12年前の3月11日。私は東京の3.11を経験していません。
表参道を流れていった帰宅困難者の波も、ビルが大きく揺れ続けたその瞬間の恐怖も、ベランダで叫び続けていた女性も見ていません。
その日、私は仕事で大阪にいました。中之島のホテル・ロイヤルで、新幹線不通と書かれたホワイトボードを見て、ことの重大さを知らずに至誠に電話したのでした。
携帯は奇跡的に繋がりました。そして、東日本大震災のことを知りました。
翌日、動き出した新幹線を待って東京に戻ると、マンションの7階の自宅は、ガラスや器が割れ、物が散乱し、5つの本棚が倒れて寝室のドアは開かなくなっていました。
うちの被害など、微小なものだったと思います。それでも、前日、大阪に行く前の部屋と帰宅した時の部屋の違いは、衝撃でした。
明日も今日と同じとは限らない。
その時、長年、手をつけられずにいたリノベーションをしようと決めました。1日でも長く、心地よい部屋で暮らせるようにーー。
あの時、リノベーションをして本当に良かった。していなかったらと思うと、暗澹たる気持ちになります。
リノベーション後の自宅は、暮らしの小さなストレスが解消され、本当に心地よい空間でした。断熱と床暖、真空複層ガラスのおかげで、寒さと暑さも軽減しました。そして何より、美しい空間は「普通の暮らしを楽しむ」ことに、私たちを向き合わせてくれました。
私は新しくなった自宅での日々の小さな発見を、ウェブマガジン「ミモレ」に連載し、それはのちに「ていねいに美しく暮らす インテリアの小さなアイデア109」という本になりました。
至誠はあの家を愛していました。
2019年に入院するまでの7年間、そして入院している間も、ずっと。
「家に帰りたい」。病院で至誠はいつもそう言っていました。
私は今、インテリアのコーディネートやリノベーションをお手伝いする「MLスタイリング」https://mlstyling.modernliving.jp/に、ディレクターとして関わっています。実際にインテリアを提案し、笑顔になって頂けることはこのうえない喜びです。
家づくりやインテリアの変更といった大きなことに手をつけられるタイミングは限られています。経済的にも体力的にも家族の健康にも問題がなくて、初めて可能なことだからです。
だから、今、インテリアやリノベーションに迷っている方がいるとしたら、背中を押して差し上げたい。今しかありませんよ、と。
あの時、私達がリノベーションに踏み切らなかったら、至誠との最後の10年間は大きく違ったものになっていたでしょう。
3.11の翌日、私が大阪から戻った3月12日は、至誠と私の28回目の結婚記念日でした。
あれから12年。
明日、私たちは40年目の結婚記念日を迎えます。