ひと言で言えば、圧巻だった。
知っていると思っていた織田コレクションが、これほど崇高なものだとなぜ今まで気づかなかったのだろう。
そして、その空間に満ちていたのは、人と人、時間と時間がつながって生まれた「リスペクト」だった。
渋谷ヒカリエで12月2日から開催される、織田コレクション「ハンス・ウェグナー展 至高のクラフツマンシップ」のプレスプレビューへ。
織田コレクションのウェグナーの椅子、180脚あまりが展示された。
空間構成は、世界で活躍する建築家の田根剛さん。
田根さんは東海大学旭川校に学び、織田先生の教え子でもある。
織田コレクションは、織田憲嗣さん(敬愛を込めて織田先生と呼ぶ)が、生涯をかけて集めた 1450脚以上の椅子と日用品、書籍、資料からなる数万点にも及ぶコレクションだ。
現在はそのうち1350脚以上を、北海道東川町が文化財登録し、公有化している。

私は2003年にモダンリビングの編集長になった時から、織田先生と親しく交流させていただいた。
織田邸に伺った回数は数え切れない。
東川でのニ拠点生活を始めたのも、織田先生の声掛けがあったからだ。
東川に住むようになってからは、さらに親しく織田邸に伺わせていただいた。
おそらく最も長く織田先生のお話をお聞きし、織田邸での時間を過ごした1人だと思う。
織田コレクションの椅子も相当数目にしている。
それでも、今日のウェグナー展には圧倒された。
織田先生は研究者という視点でどれほどの熱量と時間をここに傾けてきたのかーー椅子がそれを物語っていた。
最初の入り口のところで、織田先生の映像が流れている。
この収録の一部に立ち会わせていただいたのは9月の初めだった。
懐かしい夏の織田邸が鮮やかにくっきりと写っている。
映像作家の青木誠也さんの撮る織田邸と織田先生は、あまりにも美しい。
そしてそれは、織田先生が住まいを移してしまわれた今、もう二度と見ることができない。
そう思うだけで涙が溢れてくる。

部屋を巡ると、次々に意表をついた展示が広がる。
図面で壁が埋め尽くされた中に展示されたパーツの数々。
ウェグナー邸を再現した5分の1のミニチュアの椅子。
ジュエリーのように大切に、1脚ずつ台の上に置かれ、照明に浮かび上がる椅子。
ウェグナーさんの貴重な映像と深い言葉の数々。




そして、たくさんのウェグナー作品を見たと思って踏み込んだ次の部屋で、まだこんなにあったのかと驚きを覚えずにいられない、年代ごとに分かれて展示された椅子やキャビネットやベッドやテーブル。

そこでは、織田先生による解説が聞こえてくる。そして照明は緩やかに暗くなり、明るくなりして家具を照らす。
織田先生はウェグナーの魅力を「美しさ、機能性、オリジナリティ」とおっしゃる。
そしてこの展示から「デザインの系譜を読み取ってほしい」と。
起伏に富んだ会場構成は、奇をてらったところは全くないのに意表をつき、家具という本来、寡黙な存在が饒舌に語りかけてくる。
田根さんはどこまで深く織田コレクションを理解し、どこまで深くウェグナーの作品を掘り下げたのだろう。
プレスプレビューで、田根さんはウェグナーのデザインを「木に対する尊厳を宿している」と語った。
会場構成をするにあたり、「人生から人生へのバトンを渡す思いだった」。
その展示は、織田先生がおっしゃるように「幅は狭いけれど、限りなく深い」ウェグナーのデザインそのものに思えた。
このウェグナー展をつないでいたのは「リスペクト」だった。
ウェグナーの家具職人への尊敬、織田先生のウェグナーさんへの尊敬、田根さんの織田コレクションと織田先生への尊敬。
人と人、物と人が時間を超えて繋がり、一つの輪になっていた。
一度ではとても昇華しきれない。
だから、もう一度、改めて行こう。
図録を読み込んだ上で。
織田コレクションは、織田先生が人生をかけて私たちに残してくださった「宝物」なのだ。
世界に類を見ない、限りなく大切な、美しいものたち。
この「宝物」を、私は人生の最後まで見届けようと思う。
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