切なくて大切な時間ーー病院の待合室で

  1. Family

朝、4時15分。枕の下に入れた携帯が鳴りました。病院からでした。「少し脈拍が弱くなったのでお知らせします。もう一段、脈拍が下がったら、ご連絡しますので病院にいらしてください」


おねえさん2人と起き、準備しました。熱いミルクティーをいれて飲みました。


5時。病院からの電話を待っていられず、家を出ました。まだ、雨が降っていました。タクシーで病院へ。


ナースステーションに行くと、脈拍は安定しているとのこと。この段階でも病室に入ることはできません。待合室で待つことにしました。


誰もいない、一部だけ電気のついた病院の待合室。おねえさん2人がいてくれて良かった、と思いました。


時々、至誠の病室とFaceTimeを繋いでもらいながら、待合室で過ごしています。おねさん達から次々に、至誠の話が出てきます。


至誠、という名前は、お父さんの芳美さんが海軍にいたときの上官の名前から頂いたそうです。とても立派な方で、お父さんは自分の子供ができたら「至誠」とつけようとと決めていた、と。ところが、一番目も二番目も女の子。そこで「至」という一字だけつけて、「至芸子」「志壽子」という名前に。


「至誠という名前は最初から決まっていて、私たちの名前はオマケ!」とおねえさん達。


知らなかったなあ。


大学に出たら県庁に勤めることを望んでいて、気がついたらマジシャンになっていた息子。でも、お父さんは至誠がテレビに出るたびに喜び、「自慢の息子だったんよ」とおねえさん達。


お父さんとお母さんを幸せにしたんだね、至誠。

「至誠は丸い顔が好きで、だから結花さんを好きになったんよ」という話も初耳です。

私が19歳、至誠が26歳で出会って、43年。結婚して38年になります。上のおねえさんは、私たちの結婚式以来の東京だそう。


こんな状況の中でも笑いが混じる、明るくてたくましいおねえさん達のおしゃべり。FaceTimeで至誠もそれを聴きながら、きっと苦笑いしていることでしょう。


外から見ると切ない時間かもしれません。でも私には不思議と辛くはありません。


これは至誠がくれた、特別な時間だから。
Day7

23歳の私、30歳の至誠。
「自分が結婚できると思わなかったよ」と至誠は言った。