9月は父と至誠を思うときーー美瑛への小さな旅

  1. Family

小さな旅に出た。東川から小1時間。いつもは行かない方向の美瑛に、その宿はある。

友人から教えてもらった、ホームページもなく、ネットでの予約もできない宿。

山のきれいな日だった。家から眺めている山々が、すぐ目の前にあった。

プレイルームと呼んでいるダイニングからも、テラスからも、部屋からも、どこからでも山が見える。

室内ではいつもピアノの曲が流れている。

外に人工物は何も見えない。テラスに出ると、聞こえるのは鈴虫の声。


東川に住み始めて4年になる。最初は東京と半々の二拠点生活だったけれど、次第に東川の暮らしが中心になり、今では月に1度か2度、数日ずつしか東京に行かなくなった。

東川の家は快適で、東川の町も人も大好き。ずっとここにいたいと思う一方で、その暮らしが日常になるにつれ、ほんの少し、あまり遠くないところで、非日常に浸りたいと思うことがある。

そんな場所をずっと探していた。

そしてここに辿り着いた。ご夫妻が2人だけで経営しているペンション。30数年前に始めたという当時からの建物は、どこか懐かしく、温かい。

部屋にはテレビもない。Wi-Fiを入れなければ、ネットもつながりにくい。

トイレやお風呂も共同で、特別な設備は何もない。

けれど、丁寧な料理が美味しく、ご夫妻のさりげない対応がとても心に沁みる。

2019年8月30日、父が亡くなった。最後は弟と2人で3日間、病室に泊まり、家族で過ごした。

東京に戻ってすぐに、至誠と東川に来てニセウコロコロに泊まり、初めて2人で旭岳に上った。といっても、第一展望台までだけれど。

その時、山で、私は父を送った。

そして、それが至誠と旭岳に上った最初で最後の日になった。

だから9月の初めになると、父のこと、至誠とのことを思い出す。

日が沈み、月が上った。14番目の月だった。夜中、目覚めたら、オリオン座が窓の外で輝いていた。満天の星だった。

この宿を去る前にこれを書いている。今、見ている目の前の山々は、私の思いを受け止めてくれる。

少し気持ちが浄化された気がする。

昨日のくっきりと見えた山も美しかったけれど、今朝の墨絵のような山が好きだ。

稜線が複雑に、なだらかに、一本の線を描いている。

人を本当に慰めることができるのは、自然だけだと思う。

自然の中に入ること、近づくことは、とても貴重な、そして必要な時間だ。

至誠の死から4年経って、やっと、生きることに向き合えるようになった。

またここにこよう。自分の心を見失いそうになったときは。

⭐️泊まったのは、ペンションウィ。電話0166-92-1777

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