修理に出したシルバーのポットが、美しく蘇って帰ってきました。
このポットに出会ったのは、イギリスでのこと。当時、ヴァンテーヌという女性誌の編集者として毎年のようにイギリスに取材に行っており、アンティークの魅力に目覚めて買い求めたものでした。
1910年製のスターリングシルバー。ヴィクトリアン時代が終わり、装飾的なスタイルからシンプルで曲線的なデザインに移行した頃のものです。
特に年代などは気にせずに買い求めても、気づくと同年代のものが多く集まっているのは、私の好みと共通するスタイルがそこにあるからでしょうか。
小ぶりなのにたっぷり4杯分入り、持ちやすく軽く、本当に使いやすいポットでした。朝食は紅茶というのが習慣だったので、ほとんど毎日、使っていました。もちろんお茶の時間にも。ひとりゆっくり淹れる時も、来客があってたくさんの人とお茶を飲む時も、変わらずそこにありました。
購入したのは1995年頃ですから、もう25年くらい、うちにいることになります。銀器なので曇ってくれば、年に1、2度銀磨きで磨き、また気持ちよくきれいになって、と時間を経てきました。
ただ、長い間に、木製部分のつまみや持ち手のダメージが目立ってきました。なんとか気をつけて使っていたのですが、ついに持ち手が分解寸前に!お茶を入れて持ち上げると、落ちてしまいそう!そういうわけで、しばらく休み中でした。
でも、このままにしておくのはもったいない。作られてから120年、まだまだ暮らしの中で使っていきたい。
ネットで銀器の修理をしてくれるところを探し、連絡をとってみました。何度かメールや写真でのやり取りの後、現物を送って相談。
持ち手やつまみは、黒檀で作り直すとのこと。修理代は7万円ほど。イギリスで購入した時の価格は、220ポンド(当時のレートは1ポンド=250円)でしたから、単純に比べると、修理代の方が高くなります。
しかし、私の心配は、修理代よりも元の味わいがなくなってしまわないか、ということでした。その問い合わせに対してのメールがこれでした。
弊社は、他社製の製品を色々と修理してまいりました。
黒檀ツマミ・取っ手は、同じ形ではありませんが、
弊社で出来る加工でやらせていただきます。
一つ一つ手作りでございます、お見せできる物はありません。
どうぞ、弊社にお任せください。
新潟県燕市にある早川器物という会社です。
職人の矜持とでもいえば、よいのでしょうか。久しぶりに、プロフェッショナルの言葉を聞いた、と思いました。
御社を信じてお任せします、とお返事して、1ヶ月。
戻ってきたポットの美しいこと!元はこんな姿だったんだな、と改めて思い出しました。コーティングなどはしていないので、今は新品のようですが、次第に曇ってきたりもするでしょう。そうすると、元の味わいに近づいていくと思います。
10年ほど前には、輪島塗のお椀2客を修理に出したことがあります。就職して1年目に買ったものですから、30年近く経っていました。日常使いで細かいキズが目立ってきたので、購入した店に問い合わせ、塗り直してもらったのでした。
この時は3ヶ月ほどかかったでしょうか。新品同様になって戻ってきました。このお椀、購入した時の価格は15000円✖️2客でした。新入社員にとっては、かなり思い切った買い物です。一方、修理代は3500円✖️2客でした。
あれからまた時間が経って、それなりにキズも増えていますが、今でも変わらなく日々使っています。
サスティナブル(持続可能性)という言葉が当たり前になっています。東京オリンピックでも、多くのサスティナブルな取り組みがなされています。企業もプロジェクトも、サスティナブルを考慮せずには成り立たなくなってきているのです。
しかし、サスティナブルの意味を考えた時、最も相応しいことは「今あるものを長く使い続ける」という、とてもシンプルなことなのだと思います。少しの手間と思いがあれば、ほとんどの場合、修理は可能です。
そのためには、修理しても使い続けたいと思えるようなものを選ぶ、ということが基本になります。選んだ時には一生もの、と思わなくても、振り返ってみると長く共に暮らしているものがたくさんあります。
新しい命を経て、輪島塗のお椀も銀のポットも、また私たちの暮らしに寄り添い、彩ってくれるでしょう。
家人が元気になって、お茶BOYとしてこの銀のポットで朝食のお茶を入れてくれるのを、今から楽しみにしています。
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