38年間、第一線で仕事をしてきました。5年前までは、編集者として。そしてこの5年間はもっと広い意味で、豊かに美しく暮らすことの意味を伝える立場として。
力任せに駆け抜けた時期もあったし、挫折も喜びもありました。その全てがエキサイティングで生きていると実感できたーーそれは確かだと思います。
ただ、家人の介護という時間の中でふと思うのです。
何をあれほど生き急いでいたのだろうと。
季節の移り変わりにも気づかないほど。両親や弟のことを忘れるほど。
家人が退院して1週間。この間、時間はゆっくりと流れました。
朝食を調え、薬の用意をし、お風呂に入るのを手伝い、体を保湿し、爪の手入れをする。
そのひとつひとつのことを、決して急がす、大切なこととして向き合う。以前の私なら、決してできなかったと思います。いつの間にそうなったのかはわかりません。
今、こうした時間を重ねて感じるのは、時間の密度が増しているということです。
仕事は楽しい。仕事はやりがいがある。それは今も変わりません。
1日のうち、仕事モードになれば、自然とスイッチが入ります。生涯現役で仕事をするという覚悟は、以前から私の中にありました。
けれど、ゆったりと流れる家人との時間は限りなく愛おしい。
食べたいというものを、どうしたらいちばん美味しく作ることができるか心を傾ける。それは、仕事の大きなプロジェクトと同じくらい価値のあることだと思います。
病気になど、決してなって欲しくはなかった。
ただ、長く共に暮らしてきて、今いちばん心が近いところにいると、お互いに感じています。
30代、40代では難しいことかもしれないけれど、今の自分だから後輩たちに言いたい。
生き急がないで、と。
あなたの本当に大切なものを見失ってしまわないように、と。
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